そこはスキー場ではなく、旧式のリフトが稼動しているだけの雪山であった。
午前中に中初級者用の広大なゲレンデで体を温め、全長13kmのロングコースへと漕ぎ出した。
しかし、そこはスキー場と呼ぶには恐れ多い新雪地帯で、緩斜面では板が沈んでしまい、滑走しては前に進めない。
粉雪舞う中、2時間以上、膝上まである新雪の中をひたすら歩く。
体力には自信がある。天候もさほど悪くなかったので楽観視していた。
しかし、携帯電話は圏外、吹雪いてホワイトアウトになれば流石に生命の危機を感じざるを得ない。
先輩と先頭を交代しながら、縦列になって進む。白銀の世界は天国と地獄の表裏一体だ。
冒頭の一首は「男として生まれ、後世に語り継がれる名前を残さずに死んでいくのは無念だ。」と詠った歌だ。
普段「生」というものを当たり前に感じている私にとって、「死」を体感させる経験であった。
私として生まれ、いつかは必ず死んでいく無情のこの世に、バラをもって後世に名を残したい。
私が死んだ後でも誰かが「昔、長野の堀木という生産者は素晴らしいバラを作っていた。」と言ってもらえるように、今ある「生」を力一杯生きて行きたい。
生還して一気で飲んだビールの喉越しと、今日も体中をほとばしる筋肉痛、日常の仕事に戻り、体に刺さるバラの棘が、息吹の有難さを文字通り痛感させる。