彼女はどういうわけか我が家のバラを気に入ってくれ、私が市場で働いている時も色々と花のことを教えてくれた。
今となっては、我が家は「珍しいバラ」「変わったバラ」を多く作っている生産者になったが、それまではオーソドックスな品種しか生産していなかった。
オーソドックスと言うと聞こえはいいが、我が家の様な小さな農家であっては、共選となんら変わらぬ地味な生産者であっただろう。
彼女は積極的に我が家の品種植え替えに意見してくれた。
当然、中卸しで働く彼女にとって、我が家に導入したバラは必要なバラであったのであろうが、私欲と言うよりも「生産者を育てる」という行為であった。
彼女の意見に助けられた生産者も少なくないであろう。
私も当時は店員と間違われるくらいに、暇があれば彼女の店に訪れ、センスの良い花を見て目と相場観を養ったものだ。
彼女の男勝りのキップの良さとカラッとした小粋な性格は道産子だからなのだろうか?
スタッフもいつも笑顔でお客様も多く、市場の人間も溜まり場のように群がっていた。
私は彼女に「花」とそれに関わる「人」を好きでいる事が、花業界にいることの一番重要なことだと教わった気がする。
そんな彼女が長年働いていた会社を先月退職された。
送別会に足を伸ばすと、気を落とす所か、やる気に燃えた目を爛々とさせ、これからの自分の野望に少女のようにウキウキしていた。
彼女のバイタリティには遠く及ばないかもしれないが、今後私は少しでも彼女に恩返しできるように、一本でもいいバラを、一本でも安定して育てられるように成りたいと思っている。
松橋さん有難うございました。お疲れ様でした。そしてこれからもよろしくお願いします。
2008年2月9日(土)「 可愛い子には旅をさせろ 〜後篇〜 」