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 「笹の葉さぁらさら、軒端にゆ~れ~る~・・・」

 

 え!?

 

 竹じゃない!笹だ!

 

 これは大きな勘違いをしていたと、大至急家に戻り調べてみると、笹というのは小振りの竹のことであるらしい。

 

 祖母に聞いてみても「歌は笹だけど、使うのは竹。」ということで、再びリヴと出発。今度は祖父も一緒に。

 

 本来、我が家の辺りは旧暦なので8月に実施するが、幸薄いうつつに少しでも願いの叶うチャンスがあれば、何度頼んでみてもいいであろう。

 

 しかし、年に一回しか会えないカップルに、願い事を頼むなど言語道断!!

 

とも思っていたが、地球生誕から46億年。人間が毎日80年好きな人と過ごしても、高々3万日なわけだ。

 

 46億回も会っていれば、余裕も出よう。

 

 しかも、年に一度という距離感が円満の秘訣であろうか?

 

 壮大なスケールからは一転して、瑣末なお願い事を記す。

 

 残念ながら天気は良くないらしい。

 

 それでも、たまに会うのだから、織姫と彦星も人目をはばかりたいだろう。

2008年7月4日(金)「 コマーシャル ~ プリンセス オブ ウェールズ編 ~ 」 

「私、結婚するの。」

 

 出し抜けに聞かされた言葉に、哲也は言葉を失う。

 

 2年前に別れた彼女のことを忘れたことは、一度もなかった。

 

 頻繁にではないが、たまに連絡も取っていた。

 

 心の何処かでは、「元鞘に戻るのではないか。」という淡い期待もあった。

 

 自分の短所を鋭く指摘され、プライドの高い哲也は別れを切り出した。

 

 5年も付き合っていたのに、雪絵もあっさり承諾した。

 

 哲也にとっては、想定外であった。それでも引けなかった。

 

 走馬灯の様に、別れ際の記憶が蘇えり、また我に返る。

 

 「そっか・・、じゃあお祝いに飯でも行こうか?」

 

 断られると思ったが、雪絵はまたしても、あっさり承諾した。

 

 久し振りに会うと、雪絵はパーマをかけ少し大人びた雰囲気になっていた。

 

 他愛も無い話ばかりをして、哲也は結婚の話題には深く踏み込まなかった。

 

 店を出ると雪絵が


 「こんないい女を振ったなんて、あなたもバカね。」と皮肉めいて言った。

 

 「そうだな。」とふてぶてしく笑ったが、本当にそう思った。

 

 雪絵の顔を見つめるも、出る言葉もなく、別れを告げる。「またな。」

 

近くに停めてあった車へ向かうが、思い返し、車から花束を出して雪絵を追いかける。

 

「渡すの止めようと思ったけど、これ。」少し荒い息遣いで、花束を渡す。

 

「バカね。」と言い、雪絵はあっさり笑って受け取った。

 

 部屋に戻ると、街灯と窓につく雨粒の影が、部屋を水槽の中のように染めていた。

 

 彼女に渡した花と同じ花がコップに入り、こちらを眺めていた。

 

 哲也も腰掛けて、まとまらない思考を止めて花と見詰め合った。

 

 ありふれた毎日を特別な一日に

 

 思い出が優しく花開くプリンセス オブ ウェールズ

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