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2008年6月11日(水)「 コマーシャル ~アブラハムダービー編~  」 

 自分の家内の事を「ママ」と呼ぶようになってから、どのくらい経つのであろうか?

 

 引越しを終え、家路に着く車の中で一人、智和はふと思った。

 

 息子が大学に進学し、一人暮らしをすることになった。

 

 親子三人でずっと暮らしてきたが、急に夫婦二人に戻ってしまった。

 

 彼女も智和の事を「パパ」と呼ぶ。

 

 それが普通だった。いつからだろう?

 

 息子が生まれた直後は、まだお互いの名前で呼び合っていたのに。

 

 さっき家内から携帯電話にメールが届いた。

 

 「引っ越しご苦労様。ご飯作って待ってるね。今日からまた二人だね。」

 

 何か急に照れくさくなった。

 

 でも、ちょっと懐かしい、新鮮な気分になる。

 

 とっさに思いつき、ハンドルをきる。

 

 

 「ただいまぁ」玄関を開け、彼女が来るのを待つ。

 

 「おかえりなさい。」と言うものの、なかなか出迎えに来ない。

 

 「おーい! マ・・・。 理恵ぇ!」

 

 ちょっとビックリした顔で玄関に家内が来る。

 

 「はい、お土産。」とワインと小さい花束を渡す。

 

 「ありがと、パパ」と花の香りを確かめる家内。

 

 名前で呼んでもらえなかったのは、少し残念だったが、彼女の素直に喜ぶ姿に、久し振りにドキッとした。

 

 ありふれた毎日を特別な一日に

 

 忘れかけていた愛おしさを思い起こすアブラハムダービー

 

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