半年振りに長期休暇が取れたので、故郷に帰省した。
母と祖母が腕を振るってくれ、その夜は家族みんなで小宴となった。
80歳を越えても尚元気な祖父母は、少し酒を飲んで上機嫌になると戦時中の話をする。
昔は、土手の雑草まで食べたとか、一つの生卵を兄弟三人で分け合った話など。
もう何十回も聞いているが、孝行と思って黙って聞いていた。
そういえば、祖父は毎朝目玉焼きを食べている。
我が家では、母が朝食を作っているが、何故か祖父の目玉焼きだけは祖母が、毎朝作っている。
しかも、丁度いい半熟具合だ。
夫婦円満な祖父母を冷やかしてやろうと思い、
「じいちゃんは、毎朝目玉焼きを食べているけど、ばあちゃんの目玉焼きが好きなの?」
と聞いてみた。
昔気質の祖父は急に小声になり、
「別にあんなもんは好きでもなんでもねぇ。」
と大口を叩いた。
すると、それまでニコニコしていた祖母は急に仏頂面になり、
「じゃあ、明日からいらないね!」
などと言い出し、一時険悪な雰囲気になってしまった。
翌朝、そんな事などすっかり忘れて朝食の席に着くと、祖父の食卓には目玉焼きがない。
長年の夫婦生活に亀裂を入れてしまったかと、心中気が気ではなかった。
「勲。花壇の肥料を買いに行くから付き合ってくれ。」
祖父に頼まれ、近くの花屋さんに赴いた。
さっさと肥料袋を2袋選ぶと、代金を払ってくるから車に積み込んでくれと私を残して、祖父は店の中に入って行った。
車で待っていると、祖父が小さなバラの花束を持って帰ってきた。
「これ、ばあさんに、花瓶に活ける様に言っといてくれ。」
次の朝から、また半熟の目玉焼きは、祖父の朝食を彩った。
ありふれた毎日を特別な一日に
恋人みたいな夫婦にはオレンジジュース!。