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 つまり、毎日同じお月様が見られる事はない。

 

 だから、たまにタイミング良く見られると、つい見惚れてしまう。

 

 今日も朝の花切りの時に、西の空に薄水色の空に淡く溶け行く明けの白月を目にして、惚れ惚れしてしまった。

 

 先日、注文の直電をしてきたお花屋さんと携帯電話で話していた。

 

 「ジプシーキュリオーサ(グリーン)」の話になり、

「いくら?」と聞かれた。

 

私は何の戸惑いもなく、

「一本600円です。」と答えた。

 

 「高ぇよ!」と言われたが、そうは思わない。

 

 以前も記したが、生育段階で「ジプシーキュリオーサ(グリーン)」は7割程が枯れや腐りによって、スプレーとしての価値を失ってしまう。

 

 咲いた状態で1ヶ月も温室にいるのだから当然と言えば、当然だ。

 

 「格外のスプレーをばらして、ピンコロ(一輪もの)として出せば?」とお花屋さんに言われた事もあったが、アウトレットは抜き差しならない需要がない限り出荷しない。

 

 商売の幅を広げれば、どちらかに痛手を被るのは目に見えている。

 

 80cmのバラを出荷すれば、同じ品種の40cmは安くなる。

 

 スプレーで出せば、ピンコロは安くなる。

 

 ブランドショップもアウトレットストアが出来れば、本店が売れなくなる。

 

 月と同様にいつでもあるものじゃなくて良いと思う。

 

 あったり、なかったりするから、たまに出会えた時に情が深まると言うのもある筈だ。

 

 「いつまでもあると思うな、親とスプレー・ジプシーキュリオーサ・グリーン」

 

 語呂が悪すぎる・・・。


2008年10月15日(水)「 逢 瀬 」 

 日が明くる毎に、夜明けが遅くなる。

 

 長く澄んだ夜の風に晒された朝の空気を吸い込むと、体に気が満ちてくる様に感じる。

 

 空が、これ程までに艶やかな光彩を放つ時期はないだろう。

 

 いよいよ、我が家の全温室の暖房機が稼動して一週間ほどが経つ。

 

 バラ達は寒気で引き締められた枝と葉を茂らせ、温かい夜に大きな花を開かせる。

 

 この時期になると、決まって本性を露わにするバラがいる。

 

 彼女はつるバラの性質を持ち、寒冷期には旺盛によく伸びる。

 

 そして、大輪の花を付けるわけだが、自重で曲がってしまう。

 

 よってこれから年内の「アブラハムダービー」はかなり天真爛漫な枝ぶりになってくる。

 

 歳末には剪定作業に入る為、それから3月までは冬休みとなるわけだ。

 

 ある意味、期間限定の姿となる。

 

 そして、堀木園芸に通の方々には、

「おっ! 堀木のとこのアブラハムが曲がってきたねぇ。もうそんな季節かぁ。」

と、秋刀魚や松茸の出回りを喜ぶように、旬の秋を感じて欲しいものである。

 

 さらに、堀木園芸マニアの方におかれましては、

「また会えたね。」

などと、たおやかに湾曲した「アブラハムダービー」を愛でながら、ため息の一つもついて欲しいものである。

 

 まぁ、「そんなやついねぇよ!」と言われてしまえば、それまでではあるが・・・。

 

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